知識

2007.07.22

ワールド・デザイン計画
新しいデザインの構造 第4回

雑誌 STEP-BY-STEP 1997年10号 掲載
ワールド・デザイン計画
新しいデザインの構造 第4回

今回の「新しいデザインの構造」は、イタリアの古いものをテーマに取り上げてみたいと思います。10年程前になりますが、私はイタリア宗教絵画に魅せられ、絵画の古典技法を学んでいました。

まず、左を見て見て欲しいのですが。この絵柄は、フラ・アンジェリコ(ベアト・アンジェリコ)が1433年頃に描いた『奏楽の天使』の一部分です。これは額縁を含めると260×330cm位の大きさになる板にテンペラ画で描いてあるものです。

テンペラの技術自体は錬金術からも来ているので、ウサギのニカワとか、松ヤニとかをまぜたりしており、市販の油絵具とじゃ全然違うものを使用しています。そのため、どこか占いや魔術の雰囲気が漂うものです。それらの技術を用いたこの絵も、描かれてから500年以上も経つと、このように傷んだ状態になってしまいます。

僕はこういった絵の復元をデジタル上で試みたことがあります。『ベアトアンジェロ』(トレヴィル刊)という本にその際の作品が収録されています。永い歳月を経て朽ちた絵画の修復には、本来は大変な努力、技術、年月、費用、人手を要します。まず、その絵画がどんな画材を使用し、どんな技法で描かれているのかを顕微鏡などで分析し(タマゴテンペラか、魚テンペラか、カゼインテンペラか、また、それと調合する油性分はベネチア産のものかどうか等々)、描かれた当時そのままに、あるいは極力それに近い仕上がりを持つ技法で、腐食したり剥げ落ちたりした部分を描き足していきます。

このように、修復作業が最高度の注意をもって進められていきます。例えばダビンチの『最後の晩餐』の場合は、食堂の蒸気や、食物から発生するガスのため、腐食で壁画がボロボロになっていました。その修復には、白衣を着て、まるで腫物に触るかのような注意を払って修復が行われています。

しかし、デジタルの力を借りて、より素早く修復することが可能になった今、ここに紹介している本は、現在の修復作品の1つだといえるでしょう。右の『受胎告知』は、フラ・アンジェリコが1440年に描いたもので、現在はフィレンツェのウフィッツィ美術館に収蔵されているものです。下を見てもらうとわかりますが、右列3段目は、『受胎告知』から天使だけをピックアップして柱の裏側にある天使の着物を想像しながらPhotoshopで描き起こしたものです。なにも新しいチップスは使ってませんが、1992年夏時点での作業です。これを可能にした当時の機材の組み合わせを紹介すると、スキャニングした画像に、Quadra950、メモリは256MBで、内臓ハードディスクは500MB、外付けハードディスクは1.5ギガでした。ここでは、デジタルな感覚をさらに付け加えたり、減らしたりして、天使だけをピックアップしてみました。

芸術家、職人の街フィレンツェでは、まだまだPCでデザインをする人を見かけることは多くありませんが、また今度フィレンツェに行ったときには、イタリア人を集めて3Dソフトのデモでもしてみようかな。しかし、15世紀の科学の中心はイタリアにあったわけで、当時はのイタリアでは科学精神とか合理主義が見えるかと思えば、バロックのような非合理主義もあって、その当時は、まさに今世界が直面しているマルチメディアの渾沌とした状態と比較的似通っていたのではないかと思われます。よって私たちが目指している『ワールドデザイン計画(07号の「新しいデザイン構造第1回」参照)』を押し進めていきたいのは、そんなところにも理由があるのです。

Works

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